本当に大切なことは誰にも教えたくない

10年ほど前からメンタルを傷つけて病んで悩んで、自分なりに導き出した結論。たまに日常。

伊藤計劃『虐殺器官』 感想

             虐殺器官 ハヤカワ文庫JA

トピック「年内にやっておきたいこと」の一つとして挙げていた虐殺器官を読了した。ガンガンネタばれして書いちゃうので、もし今後読む予定があるかたはすぐこのページから離脱してほしい。
以下あらすじ。

 9・11を経て、"テロとの戦い"は転機を迎えていた。先進諸国は徹底的な管理体制に移行してテロを一掃したが、後進諸国では内戦や大規模虐殺が急激に増加していた。

 米軍大尉クラヴィス・シェパードは、その混乱の陰に常に存在が囁かれる謎の男、ジョン・ポールを追ってチェコへと向かう……彼の目的とはいったいなにか? 大量殺戮を引き起こす"虐殺の器官"とは? ゼロ年代最高のフィクション、ついに文庫化!       (Hayakawa Onlineより)

感想

ストーリーの構成について

 話のテンポが早く、一つの場面での出来事が終わると、インターバルもそこそこにすぐ次の場所へ移動していく。それでいてゆったりする場面ではゆったりと、スピード感を出したい所では疾走感を出すよう努めて構築されていたように思えた。ただ、その場面場面に連続性があるのかと言えばそうとは言えず、前に出てきた言葉を使いはするけど回収はせず、どこか断続的な感じが否めない。
 
 それから(どの時点でそんなに惚れ込んだのかは謎だが)心の拠り所としていたルツィアの望みがあったとは言え、終盤シェパードが完全にジョンの思想に傾倒してアメリカで虐殺を勃発させるベタで弱弱しい終幕には「ちょっと主人公が子ども過ぎる」という物足りなさを感じた。
 

内容について

 場面場面で話の運び方が上手なお陰で、ある場面がダラダラ続くことなく、説明すべき場面で説明が足りていないところと説明足りてるのに説明しすぎなところがあまり目立ってない。
 物語の肝になる『虐殺の文法』の説明シーンは、あれだけ長くそして深く言語の話をして"ここがポイントだよ!"ってアピールしまくったのに、明かされた朧げな正体にはガッカリしてしまった。タイトルとして虐殺器官と銘打っているのだから表題に選ばれる言葉に相応しい種明かしが欲しかった。
 あとは先進国は厳格な情報管理システムを持ってるはずなのに、ジョンの周辺の人達が簡単にズルしてたのも「うーん、ちょっとちょろすぎでしょ」と、随所で納得のいかない部分を見つけてしまう。
 ラストは破滅の足音がすぐそこまで来ていたのだから、もう少し街の混沌とした情景を教えて欲しかった。本当にこの後の世界では何も希望を見出す事は無いだろうと思わせて欲しかった。そうでなければ、折角の絶望なのに活き活きと役を演じきったのが、ルツィアとジョンだけで終わってしまったように感じたから。
 

まとめ

 世界観や頻出するワードからして、一つの作品としては充分に面白いはずなんだけど、話は断片的であらゆる部分において少しずつ物足りなさを感じた。この作品を支える戦争、言語、科学、脳、国際情勢、情報セキュリティなどの内、なにか一つその分野について基礎知識が固まっている人は満足できないんじゃないかな。この作品は浅瀬で遊んでる感じ。
 
    やっぱりSFは難しいね。近未来のサイエンスを描くためには現代のサイエンスに関する知見が十分に必要だからね。今回は期待と得られたもののギャップが少し大きかったけど、筆者の他作品も読んでみたい。