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本当に大切なことは誰にも教えたくない

10年ほど前からメンタルを傷つけて病んで悩んで、自分なりに導き出した結論。たまに日常。

幼馴染との話⑤

    情けない話を一つ。

    俺は不安や緊張を感じた時、左手の甲に軽くキスをするという特異な癖を持っている。これは昔幼馴染Yによって刻まれた御守りが要因だ。

     その御守りが刻まれたのは今から11年前。俺らが小学校6年生、いよいよ卒業が直前に迫ったある日のことだ。
    その日は確か、Yの家で2人ダラダラ過ごしていたんだったかな。

「はー、卒業したくないですねー」
Yはソファーに寝転びながら怪訝そうに言う。この頃になるとYは俺にだけ敬語を使う様になっている。今思えば、出会った当初の乱暴な言葉遣いも、あれもあれで良かったなと思う瞬間もあったりする。
「うーん、まあ仕方ないよ」
俺は学区に従って市立中学に進むが、Yは少し遠くの私立中学への進学が決まっていた。進学に伴いYは引っ越すことになり、今までの様に好きな時に会うことは困難になってしまった。
「え〜、さみしくないんですか〜?」
寂しくないわけねえよ。
「きくなよバカ」
Yは何故か満足そうに笑った後、何かを思い付いたというような表情をした。するとYは体を起こすや否や、俺の左手を取った。Yの手は昔からとても冷たい。俺も昔から人に冷たい冷たい言われてきたけど、その俺が冷たいと感じるほどに冷たい。
冷たいなあと思いながら何をするのか見ていると、大切そうに取った俺の手の甲に軽くキスをした。
「不安な時や悲しい時はここにキスして下さい。そうすれば心が落ち着くようおまじないをかけておきましたから」
「フッ、のろいの間違いだべ?」
「あはは……」
光栄なことに、その直後顔面に拳を頂いた。

    しかし不思議でならない。Yは予感していたのだろうか、Yと別れた数ヶ月後に俺は心を初めてぶち壊し、毎日理由の分からぬ不安感と戦うことになることを。

    心を壊してからは何か不安を感じる度に手の甲に口を付ける。完全に思い込みかも知れないけど、僅かに不安が和らぐ。こうなったらもう止められない。緊張を感じると甲にキス、不安を感じるとすぐ甲にキス。もうYの温もりを手放すことは不可能だと思われた。
    未だに不安の緩和を求めて甲にキスをする癖は無くなっていない。この癖を治さない限り、Y以上に特別な友達も女性もつくれやしない。
    必ず打ち勝ってみせる。

    これは呪いか、それとも呪いか。
間違いなく呪いだ。