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本当に大切なことは誰にも教えたくない

10年ほど前からメンタルを傷つけて病んで悩んで、自分なりに導き出した結論。たまに日常。

幼馴染との話④-2

昔話 こころ 幼馴染
    Yと出会って3年が経って、2人は小学校5年生。毎日必死にYの後を追いかけて来たお陰か、俺はすっかりYと気の合う変な男に成長してしまった。そしてその事が、俺に会うまで一人で突っ走ってきたYのアイデンティティーを破壊していった。
    小5のある時点を境にYが体調を崩す事が多くなった。話によれば、突然猛烈な不安感に襲われ、体が動かなくなるらしい。俺の母親が昔から精神的な病を患っていた関係で、原因やら苦痛やらといった事態の複雑さは何となく瞬時に理解できた。
 
    秋頃のある日、心の整理が出来たYの話を聞くことになる。確かその日は久々にYの体調が良かったので、2人でよく遊んでた大きな桜の木がある小さな公園でゆったり過ごすことにした。
    公園に一個だけある少し錆びたベンチに腰掛けて話をした。
「わたしはてつくんのことを親友だと思ってるんだけど、てつくんはどう?」
Yの話はいつも唐突に始まる。そのスピードについていくのも、この頃の俺には容易なことだった。
「ああ、俺も思ってるよ。Yとのんびり遊んでるのが一番楽しいからな」
「そう……」
Yは哀しみを込めた目で遠くを見つめ、小さく二、三回頷いてから再び口を開く。
わたしはね、今まで他人のことなんてどうでも良かったんだ。わたしと話して心から笑ってくれる人なんていなかったし、自分も心から笑うことなんて無かったから。そしてそれは、わたしがわたしであることの証明だと思ってた。でもてつくんと出会ってからは毎日が楽しくて、その証明が日々崩れていくのが不安で怖くなった。そしたらね、体が思うように動かなくなっちゃったんだよね」
Yは下手くそな笑顔を見せた。
俺は多分真顔だった。だって経験上一度その不安感を抱いた人が完全にその気持ちを消し去った例は非常に稀で、いくら薬でごまかせても、きっと一生つきまとうことになることを知っていたからだ。そしてYをそうしてしまったのは俺だ。角度を変え、あえて歪んだ言い方をすれば、Yを壊せるのは俺だけだ。
「じゃあさ、俺のこと殺す?」

「そうだね……わたしはわたしに人と交わる事の楽しさを教えたあんたを絶対に許さない。いつか必ずその細い首食い千切るから」

最後だけやたら無邪気な笑顔で言い放ったのをよく覚えてる。
    まあ、軽く殺害予告をされたわけだが、自分の気持ちは最初から決まってる。
「いいよ」
それを聞くと途端に笑顔は消え、Yは不安そうな顔を見せた。
「この憎しみをずっと背負わせることになるんだよ?」
「大丈夫、その憎しみと同じかそれ以上に愛されてるの分かるから」
俺にはその確信があった。ガキ故の非論理的だけど純粋な心がそう感じたんだから、きっとそうに違いない。
「あんたなら何の迷いもなくそう言うであろうことは予想できてたんだけどさ……」
「なに?」
わざとらしくため息をつくY。
「うーん……ちょっとキザ過ぎじゃない?」
「うっせ」
俺は本当にそう思ってたし、ちゃんと伝わったからそれで良いんだよ。
    奇妙な緊張感から解放された2人はニシシと笑った。
 
    2年後に俺はYと全く逆の理由で心を壊す。つまり、憎しみの対象はY。
    2人は幼馴染で親友。その証明として、この世で最も強い愛を向けると同時に、最も強い憎しみを向け合う。